ファンからの寄稿文
「40周年に思う、佐野元春のこと」

たかが音楽、から受け取ったもの

豊田真伸

 19才のある日、夜更けに布団の中に潜り込んでラジオを聴いていた。その番組には同じ曲を1週間かけ続けるというコーナーがあって、その時流れていたのが「SOMEDAY」だった。

 何か気になったので、次の日の同じ頃合いに僕はもう一度同じラジオを付けた。でももう一度聴いたけどよく分からなかった。僕は「SOMEDAY」を気に入った訳ではなかった。言ってみれば、「ちょっと君、もしかしたらここに何かあるかもしれないよ」。そんな風に呼び止められているような感覚だった。

 僕はレンタルCD屋へ行ってアルバム『SOMEDAY』を借りた。通して聴いたけど、あまりピンとこなかった。90年代初めの当時、派手な音楽に耳が慣れた僕にとってアルバム『SOMEDAY』は何かくぐもったような、フィルムの向こうのような、今いる時代とはまた別の時代の音楽のように思えた。なんか長靴のようだな。そんな風に思ったのを覚えている。それ以来、聴かずじまいだった。

 それでも気になった僕は、今度はアルバム『ノー・ダメージ』を借りてきた。僕が佐野の音楽に夢中になったのはそれからだ。来る日も来る日も佐野ばかり聴いていた。

 勿論、アルバム『SOMEDAY』も気に入って聴くようになった。そしていつの間にか『SOMEDAY』は僕が佐野の音楽に出会って最も聴いたアルバムとなった。あんなに違和感があったのに、何故?今となっては分からない。ただ十代から二十代にかけての僕の人格を形成する最も大事な時期に、僕はこのアルバムと出会った。

 19才の僕はたかが音楽から特別な何かを受け取った。それは生々しい体験だった。

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