ファンからの寄稿文
「40周年に思う、佐野元春のこと」

決断の道標として響く、ガラスのジェネレーション

森朋之

 私(1969年生まれ、岡山出身)と佐野元春さんの音楽との出会いはちょっと変わっていて、マンガ「マカロニほうれん荘」がきっかけでした。

 「マカロニほうれん荘」は1980年頃大人気だったギャグマンガなのですが、キャラクターたちがおすすめの曲を紹介し合う場面があり、そのなかの1曲が「アンジェリーナ」だったのです。ちなみに、その他に紹介されていたのは竹内まりやさんの「不思議なピーチパイ」、ザ・ポリスの「白いレガッタ」など。なんというか、とても良いセレクトですよね。

 当然ですが、マンガのなかで紹介されても、どんな曲なのかさっぱりわかりません。インターネットもありませんし。小学生だった私は、なぜか「アンジェリーナ」というタイトルがとても気になり、どうにかして曲を聴きたいと思いました。

 コツコツとお小遣いを貯めて、近所のレコード屋さんに自転車で行ったのは、1981年の春。棚に並んだレコードのなかから、“最新アルバム”の「Heartbeat」を買い、さっそく家で聴いてみました。残念ながら「アンジェリーナ」は入ってなかったのですが ── 1stアルバムを買うまでには、さらに六か月が必要でした ── 1曲目の「ガラスのジェネレーション」を聴いた瞬間、本当にビックリしてしまいました。英語と日本語が混ざった歌詞、感情剥き出しのボーカル、都会的なムードと生々しい臨場感が共存するサウンド。今ではいろいろな言葉で説明できますが、そのときは“なんだこれ”という感覚だけで、正確には、何の言葉も浮かばず、ただただ呆然と驚いていました。それまで耳にしていた歌謡曲とはまったく違う音楽に、一気に引き込まれたのです。

 「Heartbeat」のレコードは文字通り、擦り切れるまで聴きました。1年後には自分の頭のなかで全曲再生できるようになり、授業中も脳内でリピートしていたので、どんなにくだらない授業でもまったく退屈することはありません(もちろん、教師の話など聞いてませんが)。すべてのフレーズが体のなかに深く刻まれていますが、いちばん心に残っているのはやはり、「ガラスのジェネレーション」の<つまらない大人には なりたくない>という歌詞です。楽曲が書かれた背景を知ることもなく、ただただ単純にこのフレーズを真っ直ぐに受け止めた私は、その後の人生において何かを決断する際、いつも頭のなかで「ガラスのジェネレーション」を再生していた気がします。その決断によって、<つまらない大人>になってしまわないか、と。

 その愚直さが良かったのかどうかはわかりませんが、私が今、音楽ライターを生業にしていることと、<つまらない大人には なりたくない>というラインはまちがいなく結びついています。おそらくは多くのファンの方々がそうであるように、佐野元春さんの音楽は私の人生に大きな影響を与えました。それは私にとって、数少ない幸福な出来事だったように思います。

 そして、佐野元春さんの音楽が今も素晴らしく、示唆に富んでいて、刺激に溢れていることは、一人のファンとして、そして、音楽ライターとしても、本当に幸せなことだと思います。10代の頃に好きになったミュージシャンの作品を聴き続け、ときに理解できなかったり、「これはどうなんだろう?」と思いながらも ── そういう作品も、時が経てば「なるほど」とわかるときが来るのですが ── こちらの思考と体感を刺激してもらえることは、先が見えない社会を生きるうえで大きなヒントになっています。これからもどうか、ポップミュージックという芸術の素晴らしさを感じさせてください。40周年、おめでとうございます。

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