ファンからの寄稿文
「40周年に思う、佐野元春のこと」

ある日、橋の上で

Silverboy

 1997年1月、僕はネット上でささやかなクラブを始めた。「Silverboy Club」というのがその名前だ。そしてその年の3月、佐野元春の誕生日に寄せて「今夜、ありふれた街角で」というテキストを書いた。僕のクラブの実質的なスタートだったと思っている。

 あれから20年以上が経って、今年の3月、そのテキストをアップデートしてみた。これは、佐野元春の2021年の誕生日に寄せたメッセージであると同時に、40周年への祝辞でもあり、そして何より、僕自身の現在地を確かめるテキストである。


ある春の午後、大きな川に架かる橋の上で、50代半ばくらいの男二人が立ち話をしている。

S: やあ、ひさしぶり。偶然だね、こんなところで。

N: やあ、君かい、ひさしぶり。どこか行くのかい?

S: ちょっと古い友達の誕生日に呼ばれてね。その後元気かい?

N: まあ、悪くないよ。いろいろあったけど、仕事はそこそこうまく行って、今では部下もたくさんいるし責任ある立場だ。家も買ったし、子供はもうすぐ巣立ちそうだし、これが人生って感じだね。

S: (なぜか遠慮がちに)もう、音楽とかは聴かないのかな…?

N: どうしたんだい、元気がないじゃないか、君らしくもない。音楽かい? よく聴くよ。買うCDは少なくなったけど、今はストリーミングとか、サブスクリプションとか、何だかいろいろあるじゃないか。

S: (ため息をついて)そうだよな。何だかもう新しい音楽は疲れちゃう感じがしてさ…。

N: そうかな。まあ、確かに体力は落ちたからね。でも僕は毎週ジムで泳いでるよ。

S: そういえば水泳部だったよな。(力なく笑う)

N: ところで佐野元春のベストは手に入れたかい。

S: もちろん。

N: どうだった。

S: うん、何というか、僕は勇気づけられたよ。

N: と言うと?

S: そうだな、ベストなんだから回顧的なニュアンスがあるのは当然なんだけど、それだけじゃなくそこにちゃんと現在や未来に向かった視線があらかじめあるのが分かったっていうか、種子の中に初めから根や葉や花が入っているように、すべては最初からそこにあったんだなってことに気づいたっていうか、(少しずつ言葉に力がこもる)特にコヨーテ・バンドの方は今ここにいることの意味っていうか、図らずもこの時代に生きることの責任みたいなものが感じられて背筋が伸びる思いがしたよ。

N: ふうん、何だか難しいね、でもよかったってことだね。

S: もちろん。

N: 僕もすごく気に入ったよ。僕は何だか高校生の頃、実家の勉強部屋に射しこんでた西日のこととか思い出しちゃったよ。

S: 僕は「黄金色の天使」が好きだな。(歌い出す、が著作権の都合で割愛)

N: 僕もだよ。(声を合わせて一緒に歌い出す、が著作権の都合でやはり割愛)

N&S: (徐々に盛り上がり感極まって泣きながら歌っている、が著作権の都合でどうしても割愛)

S: (鼻水をかみながら)いやあ、何だかすっきりしたよ。でももう行かなくちゃ。

N: その友達に会ったらなんて言うつもりだい?

S: まずは誕生日おめでとう。それから何か言うとすれば、メッセージは確かに受け取ったってことかな。

N: オーケー、僕からもよろしく伝えてくれよ。それじゃあまた。

S: うん、近いうちにまた会おう、それじゃあ。

手を振って別れてゆく二つの人影、大きな川は流れ続けている。

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