今年デビュー40周年を迎えた佐野元春のベスト盤2タイトルが届き、毎日カーステレオで聴いている。
2005年から活動しているコヨーテバンドとのベスト盤が6月に発売予定だったものの、コロナの影響もあってか発売延期となり、この秋に1980年のデビューから2004年までのepicソニー時代のベスト盤と合わせて2タイトルが発売される運びとなったものである。
80年代後半から90年代の初めにかけて、佐野元春のライヴを観ていた。しかし「SWEET 16」以降、なんとなくしっくり来なくなって、彼の音楽から遠ざかっていた。そんな経緯があり、このベスト盤は私にとっては空白の時間を埋めるアルバムになる。
まずは、コヨーテ盤「THE ESSENTIAL TRACKS 2005~2020」をプレイする。
はじめに、言葉がストレートに伝わってくることに驚いた。佐野元春といえば、歌詞を畳み掛けるような歌い方だったり、日本語を英語のような節回しで歌っているイメージが強かったが、コヨーテバンドとの作品達は、日本語の発語がしっかりしていて、その言葉がビシビシと伝わってくる。
その言葉の鋭さは、かつての夢みがちで無垢な佐野元春の歌とはいささか違うし、世の中に跋扈する「がんばれソング」とも一線を画している。ときに残酷な現実を投げつけてくるが、投げっぱなしにはせず、ありのままの自分を否定することはなく、弱き者達に優しく寄り添ってくれる。
絶望があるから希望があることを、佐野元春は知っているのだ。
最新の楽曲である「エンタテイメント!」不寛容で偽りだらけのこの世界の中で、束の間の夢のひととき=ライヴという非日常を楽しんでくれたら…という希望が歌われている曲だ。
彼もまた、聴き手のやるせない日常の悩み、悲しみを背負う覚悟をした歌い手なのだろう。コロナの影響でコンサートや演劇が自粛・縮小されたり、ライヴハウスが経営難に陥ったりしている今、全てのステージに立つ者の想いが詰まっている曲だと思った。
早くライヴで聴きたい!
エピック盤はというと、30余年の月日を超えて、エバーグリーンな風が心地よい。「アンジェリーナ」「シーズン・イン・ザ・サン~夏草の誘い」「新しい航海」等の馴染み深い曲はもちろん、私がいとまを告げた「SWEET 16」からの選曲でさえ体は覚えていて、歌の力ってすごいなと思った。
しかしながら、ライヴの定番曲だった「Indivisualist」「99 blues」が収録されていないのは何故なんだろう? 私には、何らかの意図があるように感じられてならない。
アルバムのアートワークは、上下巻に分かれた小説のようにジャケットのコンセプトが統一され、タロットカードのTHE STARとTHE WORLDがモチーフになっているのだが、そこに込められたメッセージが愛に溢れていて、胸が熱くなる。
星のカードは、「自分の夢、安らぎ、理想郷、完璧、世界一周のような大旅行」
世界のカードは、「自分の個性、直感、閃き、目標、時がいつの間にか流れる姿」
そして2枚共通して、「理想、憧れ、希望、完成」
コヨーテ盤を飾るジャケットには、バンドのメンバーが四隅に存在していて、佐野元春とコヨーテバンドの音楽を巡る旅がまだ続くことを暗示しているようでうれしくなる。
ハンドルを握りながら、何度も心が揺さぶられた。同梱の歌詞カードとデータブックも濃厚な内容で、腰を据えてじっくりと読みたい。ミュージシャンとバンドメンバー、そしてスタッフが精魂込めてリリースした2つのアルバムを、この先ずっと大切に聴き続けたいと思う。